この道は、
こんにちは。
細身の長身、ちょっと猫背。白髪の混じった坊主頭で現れた。恰好の良い初老の組長風?・・紳士。
「おーうっ」「やーあっ」
漫才コンビのような、昔から変わらない挨拶で始まります。この日は、朝からギラギラの猛暑でした。彼とは、長い付き合いです。川越街道沿いの大型コーヒーショップにて合流。そのまま雑談。
まずは健康のことから、家族の近況まで。彼は小生の「話下手」を熟知していて、その「下手」に合わせて、うまく合いの手を打ってくれます。心地よい。調子に乗ってしまうから、話はどこまでも止まらないのです。
彼の名は「板倉政友」君。弊社を3年前に定年退職。約30年間に渡って生産部門を束ねてくれていました。
在職中は色々とありました。彼の厳しい品質管理。最終チェックのことでは、時には社内でもトラブルに・・・。ただの頑固ではないのです。常にお客様の目線を正確に捉えていて、その一点だけは絶対に譲りませんでした。お客様からのクレームは激減しましたが、社内には「何もそこまでやらなくても・・・」と疲れた顔を見せる若者たちもいました。
その軋轢の中でも徹底して信念を貫いてくれました。
「戦友」とは、命を懸けてともに戦った仲間のことでしょう。まさにこの言葉が当てはまる、仲間の一人でした。ここ数年、彼のような幾人かの戦友が、順次、定年退職していきます。少し寂しい気がします。
今の様に機械化されていない時代でしたから、ほとんどの作業はハンドメイド。原始的な作業のために、爪の形が変わり、指はごつごつと曲がっていました。繁忙期には、寝る時間を削って納期に間に合わせてくれました。
当時、小生は営業にも出ていましたが、お客様の厳しい値引き交渉の中でも安易に妥協せず頑張ってこれたのは、彼ら戦友の真面目に働く姿が、脳裏からいつも離れなかったからだと思います。
会えば昔話に花が咲き、苦労も時間が経てば、楽しい笑い話に変わります。「なんだ、そういう事だったのか」と、今になって腑に落ちたことも幾つかありました。
中国の文豪 魯迅の「故郷」の中の一節。
希望とは、地上の道のようなものである。もともと道の無い地上でも歩く人が、多ければ道ができる。
確かに、希望に向かって皆で歩いて来たから、この道はできたのだと思います。
今日も明日も、この道を皆で歩いて往きます。
八月盛夏 額装の㈱アート・コアマエダ(店主)